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京都地方裁判所 平成4年(行ウ)12号 判決

原告

小西勝正

右訴訟代理人弁護士

南出喜久治

被告

宗英昭

被告

和束町

右代表者町長

宗英昭

右訴訟代理人弁護士

山口貞夫

主文

一  原告の被告宗英昭に対する請求を棄却する。

二  原告の被告和束町に対する請求のうち、国家賠償請求(金一〇万円の慰藉料請求)の訴えを却下し、その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告宗英昭(以下、被告宗という)は、主位的に原告に対し、予備的に和束町に対し、金五〇万円及びこれに対する平成三年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二被告和束町は、原告に対し、金二〇万円並びに内金一〇万円については訴状送達の日の翌日である平成四年六月一二日から支払済みまで、及び内金一〇万円については平成三年三月二一日から支払済みまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一請求の類型(訴訟物)

1  和束町民である原告は、次の支出が違法な公金支出であると主張して、和束町町長である被告宗に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づき、和束町に代位して、主位的に原告に対し、予備的に和束町に対し、損害賠償金として公金支出金相当額とこれに対する公金支出の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。

(公金支出)平成三年二月二一日の和束町議会第二回臨時会の議決に基づき、同年三月二〇日、山口貞夫弁護士(以下、山口弁護士という)に対し、原告を名誉毀損罪で告訴する件につき必要な費用として支出された金五〇万円(以下、本件公金支出という)。

2  原告は、右請求の関連請求として、被告和束町に対し、被告宗が町長として原告を名誉毀損罪で告訴した行為が原告の名誉を侵害する違法な公権力の行使に当たると主張して、国家賠償法一条一項に基づき金一〇万円の慰藉料及び公金支出の日の翌日である平成三年三月二一日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。

3  原告は、本件訴訟の提起に金一〇万円の弁護士費用を負担したと主張して、地方自治法二四二条の二第七項に基づき、金一〇万円の弁護士費用及び訴状送達の日の翌日である平成四年六月一二日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。

二前提事実(争いがない事実)

1  当事者

原告は、和束町の町民である。被告は、和束町の町長であり、地方自治法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当する。

2  公金支出

(一) 原告は、平成二年一二月二六日、和束町がした京都府相楽郡和束町大字別所小字城ケ原六九番地及び同和束町大字中小字平田七九番地の土地(以下、本件土地という)における、共同墓地(以下、本件共同墓地という)の設置に関し、氏名不詳者が不動産侵奪罪を犯したとして、京都府木津警察署に告発状を提出した。さらに原告は、平成三年二月一五日頃、右墓地が他人の所有地や里道(国有地)を取り込んでいる旨の内容のビラを新聞折込みの方法で和束町民に配布した。

(二) 被告宗は、平成三年二月二一日、和束町が原告を右(一)の行為につき誣告罪及び名誉毀損罪で告訴する旨の議案を和束町議会第二臨時会に提案した。右同日、同議会において右議案が原案どおり議決され、同年三月二〇日、山口弁護士に金五〇万円が支出された。同弁護士は、同月二二日、原告を名誉毀損罪で木津警察署に告訴した(以下、本件告訴という)。

3  監査請求

原告は、平成四年三月五日、本件公金支出につき、地方自治法二四二条一項に基づき、和束町監査委員に監査請求をしたが、同監査委員から同年四月二四日、本件は監査請求の対象外である旨の通知を受けた。

三争点

1  本案前

(一) 原告の被告宗に対する請求のうち、原告に対し金員の支払いを求める部分は、住民訴訟として認められるか。すなわち、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく町長個人に対する住民訴訟(以下、住民代位訴訟という)において、住民である原告自身に金員の支払を請求できるか。

(二) 原告の被告宗に対する請求の個数及びその併合形態。

(三) 原告の被告和束町に対する国家賠償請求は、住民訴訟の関連請求(行政事件訴訟法(以下、行訴法という)一三条)といえるか。

2  本案

(一) 本件告訴の主体は、被告宗個人か、機関としての被告宗、すなわち、和束町か。

(二) 右告訴に必要な弁護士費用の支出が違法な公金支出に当たるか。

(三) 本件告訴が原告の名誉を侵害する違法な公権力の行使に当たるか。

第三争点の判断

一本案前の判断

1  住民代位訴訟において原告自身に損害賠償を求めることの適否(争点1(一))

(一) 原告の主張

被告宗個人と和束町の代表者たる町長宗とは、事実上、同一人であるから、損害賠償の履行がなされたか否かを原告において確認する方法がない。このような場合、住民全体の利益の擁護のために、債権者代位権(民法四二三条)の法理を準用し、原告は、被告宗に対し、直接原告に右損害賠償の履行を求めうる(なお、原告は、当裁判所の釈明にもかかわらず、右請求を撤回しない)。

(二) 被告らの主張

地方自治法二四二条の二第一項四号は、住民に自治体に代位して自ら原告として訴えを提起しうる適格を認めるにとどまり、当該住民自身に損害賠償金の受領権限を認めたものではない。

地方自治法の定めによる訴えと民法の債権者代位権による訴えとは、制度の趣旨、目的、要件をいずれも異にするものであり、住民訴訟に債権者代位権の法理を準用する余地はない。

(三) 検討

(1)  住民訴訟は民衆訴訟の一種であって(行訴法五条)、客観訴訟として法律に定めのある場合において法律に定める者に限り提起することができる(同法四二条)。

そして、地方自治法二四二条の二第一項四号の住民代位訴訟は、住民が普通地方公共団体(以下、自治体という)に代位して当該職員等に対し、自治体に損害を賠償するように請求する訴訟形態を認めたものであり、直接住民に損害賠償金の支払請求を認めたものではない。

すなわち、右住民代位訴訟は、自治体が違法行為をした職員等に対して有する損害賠償等の請求権を適切に行使していない状態を是正するため、住民に本来の請求権の帰属主体である自治体に代位して右請求権を行使することを認めたものである。それにより、自治体に生じた損害を右職員等に自治体に対し現実に填補させることによって自治体の財政の健全な維持を目的としている。右の趣旨に照らせば、住民は住民代表として自治体に損害を賠償するよう当該職員に対し請求しうるにとどまり、住民自身に対し右損害を賠償するように求めることは許されない。

したがって、原告の右請求は法律に定めのない住民代位請求であって不適法である。

(2) なお、原告は、前示のとおり、被告宗個人が損害賠償を履行したか否かを確認できないから、債権者代位権の法理を準用して直接原告に右損害賠償の履行を求めうると主張する。

しかし、被告宗の和束町への損害賠償金の支払の有無の確認は、和束町の会計帳簿書類、決算書類の閲覧等により行うことができ、原告の右主張はその前提においても既に理由がない。それのみならず、住民代位訴訟において原告は自治体に対する債権者としてではなく、住民全体の公益の代表者として自治体に代位して請求権を行使するのである。そして、代位請求の形式は、地方財務行政の適正化を図るという右訴訟の目的を実現するための訴訟技術的配慮に基づくものにすぎない(最判昭五三・三・三〇民集三二巻二号四八五頁参照)。そうすると、右住民代位訴訟と民法の債権者代位権に基づく訴訟とは、その目的、性質等において異質のものであり、住民代位訴訟に民法の債権者代位権を準用する余地はないというべきである。

したがって、原告の右主張は失当であり、採用できない。

2  原告の被告宗に対する請求の個数及びその併合形態(争点1(二))

(一) 被告らの主張

原告の被告宗に対する請求は、主位的に原告に、予備的に被告和束町に金五〇万円の支払いを求める点で変則的ながら訴えを主観的予備的に併合するものであるから、右予備的請求は併合要件を欠き不適法である。

(二) 原告の主張

原告の被告宗に対する請求の併合形態は、主観的予備的併合ではなく、客観的予備的併合であるから、予備的請求は適法である。

(三) 検討

(1) 右請求の訴訟物は、和束町の被告宗に対する損害賠償請求権であるが、原告は、被告宗に対し、主位的に原告へ、予備的に和束町へそれぞれ損害賠償の履行を求めている。しかし、右請求は、原告が和束町の住民である資格において和束町を代位して提起したいわゆる訴訟担当の一つである。これとは別に原告が同人自身のために提起した訴えはない。したがって、訴訟提起者が複数存在するものではない。そうであるから、原告が複数の被告に対し、順位を付して共同訴訟の形態で審判の併合を申し立てる主観的予備的併合でもないし、複数の原告が提起する同旨の共同訴訟でもない。

このように、原告がした主位的、予備的という記載は、共同訴訟をいうものでなく、被告宗の損害賠償の履行の相手方を指定するもので、それは一個の請求内の態様の差異にすぎない。

したがって、右請求の訴訟物は、代位の対象である和束町の被告宗に対する損害賠償請求権一個であり、右請求は客観的併合にも当たらない。

(2) このように、原告の右の主位的、予備的という記載は請求の態様に順位を附したもので、請求の一部の当否の問題であって、訴えの適否の問題ではない。

したがって、被告の本案前の主張は採用できない。

3  原告の被告和束町に対する国家賠償請求と住民訴訟にかかる請求との関連性(行訴法一三条)の有無(争点1(三))

(一) 被告らの主張

地方自治法が特に弁護士費用についてのみ住民訴訟にかかる請求と同一手続内で請求することを認めていることに照らし、原告の被告和束町に対する国家賠償請求は、住民訴訟にかかる請求とは関連性がなく不適法である。

(二) 原告の主張

右国家賠償請求は、本件住民訴訟の関連請求として適法である。

(三) 検討

(1) 関連請求の客観的併合(行訴法一六条)、共同訴訟(同法一七条)、追加的併合(同一八、一九条)の規定は、同法四三条三項、四一条二項により、住民訴訟にも準用される。そこで、本件において国家賠償請求が住民代位訴訟の同法一三条の関連請求に当たるか否かにつき検討する。

行政事件訴訟法では関連請求についてのみ併合が認められている(行訴法一三条)。その趣旨は、併合審理をすることによって審理の重複を省き、判決の矛盾抵触を避け、一挙に紛争の解決を図るとともに、他方、請求の併合を右の目的の限度にとどめ、それ以上は併合を抑制することによって、迅速な審理、裁判を図ろうとする点にある。

そうすると、行訴法一三条各号所定の関連請求は、両請求の原因をなす事実関係や適法事由等をめぐる主要な争点が共通する場合であって、一方における解決が他方における解決に対しても影響を及ぼすような請求を指す。

本件において、原告は、住民代表としての資格で和束町のために同町を代位して住民代位訴訟を提起しているもので、実質的には被代位者である和束町が原告である。他方、原告は、同人自らの資格で国家賠償を請求している。

このように、両請求における原告の資格が異なるので、実質的に両者は共同訴訟(主観的併合)に当たる。そして、右各請求は、事実関係として本件告訴が関係しているというにとどまり、住民訴訟の請求では、告訴に要した費用の公金支出の適法性が争点であるのに対し、国家賠償請求では、右支出の結果なされた本件告訴の違法性が争点であって、両請求の主要な争点は共通でない。

したがって、両請求は行訴法一三条各号所定の関連性があるとはいえず、同法一七、一八条の併合要件を欠く。

(2)  そして、本訴請求と併合提起された別の請求に係る訴えが右併合の要件を満たさないため不適法な併合の訴えとされる場合、原則として右併合された請求に係る訴えを不適法として却下すべきではなく、これを本訴請求と分離したうえ、自ら審判するか、又はその事件がその管轄に属しないときはこれを管轄裁判所に移送する措置をとるのが相当である。しかし、後者の請求の併合が本訴請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし、専らかかる併合審判を受けることを目的としてなされたものと認められる例外的事情が存する場合には、併合された請求に係る訴えを不適法なものとして却下すべきである(最判昭五九・三・二九裁判集民事一四一号五一一頁参照)。

本件において、原告は、住民訴訟に国家賠償を追加的に併合して請求し、本訴との関連性、請求の基礎の同一性を当然に満たしている旨主張し、最終弁論期日(第八回口頭弁論期日)において右国家賠償請求につき新たな主張を予備的に追加している。そして、原告は、右併合にかかる国家賠償請求が関連請求として認められない場合に備えてこれを住民訴訟と分離した上で審判を求める旨の意思もなく、その申立もしていない。

右のような事情に照らすと、本件においては、国家賠償請求は本訴請求と同一の訴訟手続内で審判されることを前提とし、専らかかる併合審判を受けることを目的としてなされたものと認められる。

したがって、国家賠償請求に関する本案の争点(争点2(三))を判断するまでもなく、右請求の訴えは不適法であるから、これを却下するのが相当である。

(3) 仮に、右請求の訴えを却下せずに弁論を分離して判断したとしても、次のとおり、原告の右請求は棄却を免れない。すなわち、本件告訴によって摘示された事実は、原告が新聞折込みでビラを配布したことであるが、これは原告自身がビラを和束町民に大量に配付したことによって既に公になっているのである。そうすると、本件告訴によって新たに原告の名誉が侵害されるとはいえない。

又、原告は、被告和束町は被告宗に対し支出した公金の返還を求めるべき義務があるのにこれを怠ったことにより、原告に多大の精神的苦痛を与えた旨主張する。しかし、後示のとおり、本件公金支出は何ら違法とはいえず、原告の右主張も理由がない。

したがって、原告の国家賠償請求はいずれにしても失当である。

二本案の判断

1  本件告訴の主体(争点2(一))

(一) 原告の主張

本件告訴は、原告の告発に起因しているが、原告は、氏名不詳者を被告発人とする告発状を木津警察署に提出したものであって、和束町を被告発人としたものではない。又、本件の告訴状にも、「同町町長である告訴人の名誉を毀損した」と記載されている。

したがって、本件告訴は、被告宗個人の名誉に関することが明らかであり、告訴の主体は被告宗個人である。

なお、法人の一部である機関自体の名誉というものは、理論上ありえないから、本件告訴の主体は和束町の機関としての町長ではない。

(二) 被告らの主張

本件告訴は、原告が多数の町民に対し、町政の執行者である被告宗の町長としての職務上の行為を摘示して、和束町の町政への住民の信頼を危うくするようなビラを配布したことに対してなされたものである。したがって、本件告訴の主体は和束町である。又、町の機関たる者の公務にかかわる事実が摘示された場合には、その機関に対する名誉毀損を観念しうるから、本件告訴の主体は、機関たる町長であるとも考えうる。

(三) 検討

(1) 証拠(〈書証番号略〉)及び前示第二の二の前提事実(争いがない事実)によれば、次の事実が認められる。

イ 和束町は、同町東地区の住民のかねてからの要望により本件共同墓地を設置することを決めた。町長たる被告宗は、昭和五九年一二月一一日、和束町財産管理委員会(委員長竹内文雄)に対して昭和五九年度地方改善事業(墓地整備)にかかる用地として、本件土地の取得につき町有財産管理委員会条例三条一項に基づく諮問を発した。これに対して同委員会は審議の結果、同月二四日、墓地用地としての取得は適当である旨の答申をした。

そこで、被告宗は、右同日、和束町議会第四回定例会に本件共同墓地整備事業の予算案を上程し、右予算案は原案どおり全員一致の賛成により可決された。これを受けて、和束町は、本件土地の売買契約を締結した。被告宗は、昭和六〇年三月一二日、昭和六〇年度和束町議会第一回定例会に本件共同墓地整備工事の請負契約締結の件を議案として上程し、右議案は原案どおり全員一致の賛成により可決された。

和束町は、右同日、工事請負契約を締結し、右工事は予定期日に完成し、以後、本件土地は東共同墓地として同地区住民の墓地の用に供されることとなった。

ロ 原告は、平成三年二月一五日頃、「町長を土地侵奪罪のうたがいで告発」との見出しで、本件共同墓地が他人の所有地や里道(国有地)を取り込んでいる旨の内容のビラを新聞折込みの方法で和束町民に対し配布した。

ハ そこで、被告宗は、同年二月二一日、和束町議会第二回臨時会に次のとおりの議案を提出した。

当事者 原告 和束町

被告 小西勝正

事件名 誣告の罪及び名誉に対する罪

事件の内容 事実に基づかない告発及び文書の配付

請求の要旨

① 名誉の回復

② 本件訴訟に要するすべての費用(弁護士報酬を含む)

事件に関する取扱及び方針

弁護士を通じて訴えを提起し、控訴、上告についてはその都度議決を求める。

ニ 右議案は、同議会において賛成多数で原案どおり可決され、平成三年三月二二日、山口弁護士により本件告訴がなされた。

(2) 右イないしハの事実及び告訴状(〈書証番号略〉)の告訴人の箇所に、和束町長として被告宗の名前が記載され、和束町役場の住所が記載されている事実を総合すれば、被告宗及び和束町議会は、被告宗が町長の職務としてなした本件共同墓地の工事を原告が批判するビラを配付したことにより和束町全体の名誉が毀損されたものと考え、その趣旨で本件告訴をしたものと認められる。したがって、本件告訴の主体は、和束町自身であって、被告宗個人や機関としての被告宗ではないと考えるべきである。

2  本件公金支出の適法性(争点2(二))

(一) 原告の主張

(1) 和束町議会の議決によれば、本来、和束町が告訴の主体となるべきなのに、被告宗個人が本件告訴をしたものであるから、それは地方自治法二条二、三項の町の事務に含まれず、本件公金支出は違法である。

又は、仮に、本件公金支出を被告宗個人に対する補助金の支出(地方自治法二三二条の二)と考えても、補助すべき公益上の必要がなく、右支出は違法である。

(2) 原告は、告発事実において、町長を含む和束町関係者を墓地設置計画を立案した関係者であるとの摘示はしたが、被告発人を町長であると特定して摘示していない。又、原告が配布したビラには町の名誉を毀損する事実の記載はなく、その内容も真実を摘示したものである。したがって、原告を名誉毀損罪を犯したとして告訴すべき正当な理由はなく、かえって本件告訴が原告の名誉を毀損する違法なものといえるから、告訴に伴う本件公金支出は違法である。

(二) 被告らの主張

本件共同墓地が他人の所有地や里道(国有地)を取り込んでいる事実はない。仮に、そのような事実があったとしても、町長たる被告宗には他人所有地等の認識及びそれに対する不法領得の意思がなかったから、不動産侵奪罪は成立しない。それにも関わらず、原告の行為を放置すれば、被告宗が本件共同墓地の設置に関して不動産侵奪罪を犯し、そのため告発を受けたかのように和束町民に誤った印象を与え、町民の町政に対する信頼が失われるおそれがある。

そこで、被告宗は、右町政に対する信頼を維持するために和束町を代表して本件告訴をしたのであるから、本件告訴に要した費用の支出は、その手続、目的、内容において適法である。

(三) 検討

前示の二1(三)認定の各事実によれば、本件告訴は被告宗が町長として和束町を代表して行ったものであると認められる。そうであれば、和束町の名誉が毀損されたとして和束町自身が本件告訴をし、それに必要な弁護士費用を支出することは、和束町の事務を実施し、その必要な経費を支出する行為に当たる。

とすれば、その余の判断をするまでもなく、本件公金支出は適法である。

なお、原告は、本件告訴が原告に対する名誉毀損罪を構成するため、本件公金支出は違法であるとも主張する。しかし、前示一3(三)(3)認定のとおり、本件告訴により何ら原告の名誉を毀損したものとはいえないから、原告の右主張は失当である。

したがって、原告の被告宗に対する本件住民訴訟は前示のとおり主張自体である原告に対し金員の支払を求める部分を含めすべて理由がない。そして、右住民訴訟が理由がなく、棄却すべきものである以上、原告が「勝訴(一部勝訴を含む)した場合」(地方自治法二四二条の二第七項)に当たらず、金一〇万円の弁護士費用の請求も理由がない。

第四結論

よって、原告の被告宗に対する請求は、理由がないから、これを棄却する。

原告の被告和束町に対する請求のうち、国家賠償請求(金一〇万円の慰藉料請求)の訴えを却下し、その余の請求は、理由がないからこれを棄却する。

(裁判長裁判官吉川義春 裁判官中村隆次 裁判官河村浩)

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